| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(口頭発表) Q02-08  (Oral presentation)

捕食者は物理構造の効果を増幅させるか?―樹洞内水生昆虫群集での検証―
Does predator presence enhance the effects of physical structure? – Insights from water-filled treehole insect communities

*新川颯輝(東京農工大学), Akihiro NAKAMURA(XTBG), Tomohiro YOSHIDA(Tokyo Univ. Agri. Tech.)
*Soki SHINKAWA(Tokyo Univ. Agri. Tech.), Akihiro NAKAMURA(XTBG), Tomohiro YOSHIDA(Tokyo Univ. Agri. Tech.)

生息場所を形成する「基盤種」の遺骸(死基盤種:DFS)は、分解者に対し「物理構造」と「食物源」の二つの機能を提供する。しかし、これら二機能が個別に群集を規定するメカニズム、特に捕食者の介在による影響の変化については未解明な点が多い。本研究は、DFSの機能劣化プロセスを理解するための基礎的知見として、物理構造と食物源が分解者群集および捕食作用に与える影響を個別に評価することを目的とした。
中国雲南省西双版納の熱帯林において、環境条件を統一した人工樹洞(プラスチックカップを樹幹に設置)を用いた操作実験を行った。DFSである葉リターの機能を模し、①物理構造(プラスチック製人工葉)の有無、②食物源(コットン粉末)の有無、③捕食者(Toxorhynchites sp.)の有無を組み合わせた実験を実施した。設置から3か月後、全生物を採集し、出現した昆虫の種数・個体数および環境要因(pH、電気伝導度、溶存酸素濃度、水量)を計測した。
研究の結果、捕食者の存在はデトリタス食者の総個体数を有意に減少させたが、その減少の程度は物理構造の有無によって変化しなかった。一方、捕食者が存在する条件下においてのみ、物理構造の有無が種組成に有意な影響を及ぼすことが明らかとなった。具体的には、物理構造が存在することで特定の種(Culex sp.等)が減少した。この結果は、DFSの物理構造が捕食による「総個体数の減少量」を抑制するのではなく、捕食の「選択性(誰を食べるか)」を変化させていることを示唆する。特定の種が物理構造を足場として利用することで捕食効率が高まった、あるいは回避場所の利用特性が捕食圧を偏らせた可能性が考えられる。本研究は、DFSの機能が捕食という生物間相互作用の質を変容させ、群集の多様性パターンを規定する重要な要因であることを示した。


日本生態学会