| | 要旨トップ | ESJ73 シンポジウム 一覧 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
シンポジウム S06 3月12日 9:00-12:00 Room F: 京大国際31
生物群集の形成や維持を規定するプロセスの解明は、群集生態学の中心的課題である。これまで、森林や土壌、海洋など多様な自然システムでの観察や実験から、統合中立理論、食物網構造と安定性の関係、非平衡共存といった、一般性の高い重要な概念が見出されてきた。一方で、動植物を対象にこれらを検証しようとすると、空間スケールの大きさや世代時間の長さを含む、物理的制約による困難がつきまとう。こうした背景から近年、微生物群集を用いて群集形成や維持に関わるプロセスの解明を試みる研究が急増している。
動植物に比べ、微生物は世代時間が短く、要求資源も単純であるため、操作実験を容易に設計でき、群集形成や共存機構の実験的検証において大きな強みをもつ。たとえば、環境条件や資源量を精密に制御できるケモスタット培養や、複数種の相互作用を再構成する合成群集実験など、微生物ならではの柔軟な操作系が確立されつつある。さらに、ゲノムサイズが小さいという特長が、DNAシーケンサーの高性能化や1細胞分取技術の進展と相まって、野外における微生物群集の全ゲノムを網羅的に記述することも可能になってきている。しかし、取りうる研究手法が多いことは一方で、自然群集の複雑性を適切に抽出しつつ、一般的原理の検証に耐えうる「よい微生物系」を設計・選定するための観察眼が求められることを意味し、群集生態学が培ってきた感性が一層重要となる時代を迎えているとも言える。
本シンポジウムでは、細菌群集を用いた実証研究において第一線で活躍する4名の研究者を招き、微生物研究に固有の手法について、基礎的な部分から整理しつつ、最先端の研究成果を紹介していただく。その中で、微生物を用いた群集生態学の意義と可能性、さらには多様な自然システムに通底する一般的原理探求に向けた、今後求められる展開について議論したい。
コメンテータ:山道真人(遺伝研)
[S06-1]
細菌群集の定量比較から迫る群集形成プロセス
Seeing through Quantitative Comparisons among Bacterial Communities
[S06-2]
湖の微生物メタエコゲノミクス:データの解像度が上がりすぎて生態学者に見てほしい件
Meta-ecogenomics of lake microbes: Extreme resolution of the data invites ecological perspectives
[S06-3]
微生物群集をモデルに生態系の「個」と「全体」を繋ぐ
Linking the "individual" and the "whole" of ecosystems using model microbial communities
[S06-4]
熱力学的に生態学をする ― 速度論から熱力学へ
Doing Ecology Thermodynamically: From Kinetics to Thermodynamic
[S06-5]
個の内側(代謝)をみて生態系を理解する
Looking inside the cell (metabolism) to understand the ecosystem