| 要旨トップ | ESJ73 シンポジウム 一覧 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


シンポジウム S18  3月13日 9:00-12:00 Room E: 京大国際32

水田生態系における温室効果ガス削減と生物多様性のトレードオフを超えて
Beyond the trade-off between greenhouse gas reduction and biodiversity in rice paddy ecosystems

大塚泰介(琵琶湖博物館), 日鷹一雅(西日本アグロエコロジー協会)
Taisuke OHTSUKA(Lake Biwa Museum), Kazumasa HIDAKA(West Japan Agroecology Association)

 農林水産省は2022年、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現する「みどりの食料システム戦略」(以下「みどり戦略」)を策定した。ここでは減農薬、減化学肥料、有機農業の推進、CO2ゼロエミッション化などが目標として掲げられている。ただし水田など農地の生物多様性向上は、直接の目標としては掲げられていない。
 みどり戦略に基づく各地の取り組みの中で、中干(イネの成長期に田んぼの水を一時的に抜いて土を乾かすこと)の前倒しと期間延長が推奨されている。これは温室効果ガスであるメタンの発生を抑制するための方策である。しかし入水から中干までの期間が短くなればなるほど、その期間中に幼虫・幼生期間を終えて羽化・上陸できる動物は少なくなる。現在、入水から中干までの連続湛水期間は30~40日の地域が多いのに対して、例えば水田で幼虫・幼生期間を過ごす代表的な動物であるアキアカネやトノサマガエルが羽化・上陸に要する日数は概ね60日である。
 メタン発生の抑制のために長期中干を行えば、水田の生物多様性が損なわれる。2024年度には中干延長がJクレジット(温室効果ガスの排出削減量等に関するクレジット制度)として承認されたことを受け、実施面積は前年度の10倍以上に増加し、5万 haを超えている。したがって、メタン発生抑制と生物多様性のトレードオフを回避する方法の確立は急務になっている。どこでも通用する決定的な方法は今のところないが、長期中干によらないメタン発生の抑制方法や、長期中干しの生物群集への影響を圃場単位あるいは地域単位で緩和する方法など、いくつかの方向性が見えてきている。生物多様性の損失がより少ない方法でみどり戦略の目標を達成するための方法と、今後の研究の方向性について、会場の皆さんとともに考えてみたい。
コメント:八木一行(愛知大学)、楠本良延(西日本農研)、池上真木彦(国環研琵琶湖)

[S18-1]
企画趣旨 *大塚泰介(琵琶湖博物館)
Purpose of the Symposium *Taisuke OHTSUKA(Lake Biwa Museum)

[S18-2]
水田からのメタン排出削減とクレジット制度の展開 *南川和則(国際農研)
Mitigation of methane emissions from paddy fields and the development of credit schemes *Kazunori MINAMIKAWA(JIRCAS)

[S18-3]
稲作における水管理の農多様性と生物多様性 *日鷹一雅(アグロエコロジー協会)
Agrodiversity and biodiversity in rice paddy water management *Kazumasa HIDAKA(West Jpn Agroecol. Assoc.)

[S18-4]
中干し時期の変化により想定される水田利用生物への影響 *金尾滋史(琵琶湖博物館)
Potential impacts of changes in mid-season drainage timing on paddy field organisms *Shigefumi KANAO(Lake Biwa Museum)

[S18-5]
中干し延長が水田動物群集に及ぼす悪影響を緩和する方法 *渡邉黎也(倉敷芸術科学大学)
Measures to mitigate the negative effects of prolonged mid-season drainage on aquatic animals in paddy fields *Reiya WATANABE(KUSA)


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