| | 要旨トップ | ESJ73 シンポジウム 一覧 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
シンポジウム S19 3月13日 9:00-12:00 Room F: 京大国際31
ある生物の遺伝情報が、その生物自身に適応的でありながら、他種の生物の表現型として発現していると解釈される現象は、「延長された表現型」(extended phenotype) の典型例であり、多様な生物間相互作用、特に寄生や内部共生といった近接的な生物間相互作用において普遍的にみられる。しかしながら、その分子機構はほとんど未解明であり、その進化史や自然生態系における役割についても事例研究に終始することが多い。
内生生物は、自らの遺伝情報をもとに、宿主の生体システム全体は破綻させずに、標的とするシグナルカスケードに巧みに介入し、多岐にわたる表現型操作・変容を実現しているはずである。結果として表出する宿主個体の表現型変化は、宿主の個体群動態のあり様を変え、さらには宿主と他種との相互作用すら変化させる可能性がある。本シンポジウムでは、寄生者による行動操作・表現型操作・発生操作、および相利共生者による共生表現型変容の分子機構についての最先端の成果を紹介する。さらに、そうした分子機構解明が、個体群動態、群集形成、ゲノム進化の多様性・制約といった生態・進化プロセスの理解に結びつく具体的な研究事例を紹介する。本シンポジウムを通して、「延長された表現型」の実例を広く対象として、分子生物学、分子遺伝学、発生生物学といったミクロ生物学研究分野と、生態学や進化生物学といったマクロ生物学分野とを、具体的かつ有機的に統合する研究領域の確立へ向けた議論を始めたい。
[S19-1]
ハリガネムシによる宿主操作の機構・進化およびその生態的帰結
Proximate mechanisms, genome evolution and their ecological consequences of the host manipulation by nematomorph parasites
[S19-2]
寄生性甲殻類フサフクロムシの性決定機構と宿主の形態的雌化
Sex determination mechanism and host feminization in the parasitic rhizocephalan barnacles
[S19-3]
生殖を操作する細胞内共生細菌がもたらす昆虫集団の生態学的・進化学的影響について
Ecological and evolutionary consequences of reproductive manipulation by intracellular symbionts in insects
[S19-4]
昆虫が誘導する植物の「延長された表現型」 ―アブラムシ虫こぶ形成機構の分子基盤―
Extended phenotypes" of plants induced by insects –molecular mechanisms underlying gall formation by aphids-
[S19-5]
宿主範囲の異なるAsobara属寄生蜂の比較から探る毒の進化
Exploring venom evolution through comparison of Asobara parasitoid wasps with different host ranges
[S19-6]
共生微生物による宿主昆虫の表現型変容
Host insect phenotypes altered by symbiotic microorganisms
[S19-7]
延長された表現型の延長?
Is the extended phenotype extendable?