| 要旨トップ | ESJ73 自由集会 一覧 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


自由集会 W17  3月12日 17:15-18:45 Room I: 京大総合北26

欠測データの処理と生態学における応用
Missing Data Analysis and its Application to Ecology

竹重志織(東北大学大学院生命科学研究科), 大久保祐作(岡山大学), 矢島豪太(日本大学生物資源科学部)
Shiori TAKESHIGE(Tohoku Univ.), Yusaku OHKUBO(Okayama Univ.), Gota YAJIMA(Nihon Univ.)

生態学分野の研究ではデータの欠測に直面する機会が極めて多い。とりわけ野外調査では、観測機器の故障や天候不順など、研究者の制御を超えた要因によって一部の測定が行えないことがしばしば起こる。その結果、調査終了後には各変数に欠測(NA)が散在する、いわゆる“虫喰い”状のデータセットが得られることになる。

しかしながら、こうした欠測値をどのように扱うかについては、これまで生態学分野で体系的な議論が行われてこなかった。多くの研究では、「1変数でも欠測がある行を削除する」「欠測値を変数の平均で補う」「欠測の多い変数を除外する」といった前処理が暗黙のうちに行われてきたが、これらの処理が分析結果に及ぼす影響については十分に検証されていない。実際、生態学の主要誌において、欠測値の処理方法を明示的に記載している論文はごく一部に限られるのが現状である。

そこで本集会では、「欠測統計学(missing data statistics)」と呼ばれる統計学の一分野に注目し、その考え方と生態学への応用例を紹介する。欠測統計学では、欠測がどのようなメカニズムで生じ、どのような偏りや不確実性をもたらすのかが体系的に研究されており、欠測を含むデータからより信頼性の高い推定を行うための手法が提案されている。まず、従来広く用いられてきた単純な前処理法が統計的にミスリーディングな結果を導く可能性を示し、その代替として「多重代入法(multiple imputation)」と呼ばれる、欠測値復元を複数回反復する欠測処理法を紹介する。さらに、生態学固有のデータ構造(例:行動データや個体数推定モデル)に対応するために開発された欠測処理手法を取り上げ、その有効性と今後の展望について議論する。

[W17-1]
回帰モデルにおける欠損補完:都市公園におけるエゾリスの人馴れデータを例に *大久保祐作(岡山大学, 統計数理研究所)
Missing Data Imputation in Regression Models: A Case Study of Habituation Data of Eurasian Red Squirrels in an Urban Park *Yusaku OHKUBO(Okayama Univ., the ISM)

[W17-2]
動物移動データ分析を欠測統計の視点から捉え直す *竹重志織(東北大学大学院)
Reframing Animal Movement Data Analysis from the Perspective of Missing Data Statistics *Shiori TAKESHIGE(Tohoku Univ.)

[W17-3]
不完全識別データによる密度推定: 深層学習の不確実性をどう考慮するか? *矢島豪太(日本大学)
Density Estimation with Incompletely Identified Data: How Should We Account for Uncertainty in Deep Learning? *Gota YAJIMA(Nihon Univ.)


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