| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


シンポジウム S12-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

知床と洞爺湖中島におけるエゾシカの爆発的増加と体サイズ・生活史特性の密度依存的変化

梶 光一,邑上亮真(東京農工大・農)

一般に,捕食者不在,あるいは狩猟が行われていない地域に導入されたり,狩猟から解放された場合,シカは高密度に達して植生を破壊し,その後ピークより低い密度で安定するという爆発的増加モデルが信奉されてきた.しかし,そのプロセスにおいて,実際に餌資源がどのように消失し,体サイズや生活史特性にどのような影響を与えたのかを調べた事例はない.そこで,長期間(25年以上)にわたってシカ個体群と植生のモニタリングが実施されてきた洞爺湖中島(導入個体群)および知床岬(自然定着個体群)を対象に,植生変化および体サイズ・生活史特性の密度依存的な変化についての検討を行った.

2つの個体群とも急増してピークに達し(中島52.5頭/km2 ,知床岬118.4頭/km2),植生に強い影響を与えた.いずれの地域でも下枝が消失し,冬季の主要な餌であるササは,中島では絶滅,知床岬では減少し,不嗜好植物が優占した.しかし,その後の個体数変動には大きな相違が見られた.洞爺湖中島では、より低い増加率でより高いピーク(83.5頭/km2)に達したのに対し、知床岬個体群ではピーク時の個体数は118~125頭/km2と変化せずに爆発的増加と崩壊を繰り返した。

中島のシカの主要な餌資源はササ・枝・樹皮⇒ハイイヌガヤ・落葉⇒落葉へと変化し,密度依存的な餌資源によって,体や角の小型化,初産齢の上昇,低い子連れ率などが生じた.一方,知床岬ではこのような生活史特性の急激な変化は認められなかったが,長期的な餌資源制限により後足長の縮小傾向が観察された.双方の地域とも,密度依存的な餌資源制限と冬季の気象の相互作用が個体数のピークを決定しているが,夏季と冬季の環境収容力の相違が異なる個体数変動をもたらせたと考えられる.以上は,捕食者や捕獲圧が欠如した場合,個体数は安定しないことを示唆する.


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