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個体の行動や生活史が、どのように広い地域の個体群のダイナミクスや進化を規定するか?−−この問いは、個体と個体群、局所と広域など、レベルとスケールを横断した新しいテーマである。この問いに対して、生態学者がたどり着いた理解の地平とその将来像を、この方面の第一人者を集めて解説してみたい。
ダイナミクスの面では、広い地域にまたがる大きな空間スケールの中で、局所個体群はそれぞれどのような特性をもつのか、さらに全体を集合するとどういうパターンが見えてくるのかという広域スケールのダイナミクス・パターンの研究を取り上げる。斉藤隆氏は、北海道のエゾヤチネズミの個体群動態パターンにおいて、北海道全体で見たときに、変動の小さい南西地域から大きな振幅の振動となる北東地域に至る地理的勾配をもたらす気候や生物的要因について講演する。さらに、グランヴィルヒョウモンモドキをモデル生物として、Ilkka Hanski氏とそのグループは、広域に広がるメタ個体群ダイナミクスのさまざまな側面、その持続性の閾値条件や分断化された生息地域における移住率の進化などを解明してきた。
また、進化の面では、個体ごとの行動・遺伝的特性がどのように集団全体の進化パターンを規定するかを取り上げる。河田雅圭氏は、生物の持つ現実性をボトムアップ的に取り込んだ個体ベースモデルによって、個体の分散がいかに近縁種のニッチ分化や、生殖隔離と種分化による生物多様性の増進をもたらすかを、理論的に解説する。そして、Peter Grant氏は、長年にわたるガラパゴス諸島のダーウィン・フィンチの調査を通じて、嘴などの形態にかかる自然選択圧の推定から、さえずりによる交雑の妨げと生殖隔離、適応放散の系統解析、さらには、過去のガラパゴス諸島の環境の推定など、種分化と適応放散の全ての過程を明らかにした実証研究を取り上げる。
これら4講演から、多くの研究者による労力が集中した「モデル生物」を持つことは、その分野全体にとっていかに重要かが分かるだろう。さらに、個体と個体群、局所と広域という軸の中で、レベルやスケールを横断した研究の魅力を、ぜひ汲み取ってもらいたい。
企画責任者:嶋田正和(東京大学)