| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA1-121
一般に、森林が断片化することで森林性の鳥類の個体数、種数、多様性は減少することが知られている。そのため、鳥に種子散布を依存している樹木では、断片化によって種子散布の効率が減少すると予想される。熱帯林では、実際にそのような関係を明らかにした研究がある。一方、温帯林は鳥類の生態が熱帯林とは大きく異なっており、熱帯で起こっている現象・理論が必ずしもあてはまらないだろう。本研究は、温帯における断片化の果実食鳥、また種子散布への影響を、断片林(約29ha)と保護林(約100ha)の比較を通じて明らかにすることを目的とする。
調査の結果、断片化は、積極的(果実を主に食べる)果実食鳥の・機会的(果実を時々食べる)果実食鳥のどちらにおいても、個体数に影響していないことが示された。この傾向は、種数や多様性指数についても同様であった。よって、本研究の調査地では、断片化による果実食鳥の減少は起こっていないと考えられた。また、種子トラップによる測定から、各樹種で、断片化の有無に関係なく、果実密度がより高い林分において鳥に散布された種子量が多く、鳥による持ち去り率が低いという傾向が見られた。この結果は、果実食鳥の個体数や種数が断片化によって影響を受けていないという先の結果と整合する。本研究の結果は、熱帯での先行研究の結果とは異なっている。これは、温帯と熱帯では果実食鳥の渡りや繁殖様式などが異なることによるものと推測する。また、果実密度が高い森林で積極的果実食鳥の個体数が多くなっていたことから、本調査地では断片化そのものよりもむしろ、景観の中に果実資源がどのように分布しているかが果実食鳥の分布や種子散布の効率に重要であると考えられた。