| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA1-125
ツキノワグマは夏から秋にかけては多くの果実を利用することが知られている。そのうち、液果については多くを噛み砕かず、原形をとどめた種子を糞として排泄することから、周食型種子散布者として機能することが知られる。一方、ツキノワグマは行動圏面積が大きいことから長距離種子散布者として機能する可能性が考えられる。
周食型種子散布者による種子散布範囲の推定には、直接観察法、遺伝子マーカーを用いる方法などがあるが、直接観察が困難で、長距離種子散布者として機能する可能性が考えられるツキノワグマの種子散布範囲の推定には、種子の体内滞留時間と一定時間当たりの移動距離を掛け合わせることで種子散布範囲を推定する方法が適すと考えられる。そこで、従来の方法より測位精度の高いGPS受信機を装着したツキノワグマの行動データを用いて、ツキノワグマによる種子散布範囲の推定を行った。
2003年から2007年にかけて延べ16頭の野生個体の行動データとともに、飼育個体を用いた種子の体内滞留時間のデータを用いて解析を行ったところ、種子の体内滞留時間は約4時間から44時間と幅があり、季節変化は確認されなかった。また、種子散布範囲は最高で16kmを越える結果が推定された。さらに、クマは一般的に「移動」と「滞在」を繰り返すこと行動様式を持つことから、「移動」時のデータを用いて種子散布範囲を推定したところ、より長距離に種子を散布する可能性が考えられた。以上の結果から、ツキノワグマは絶対的な頻度は低いものの、森林生態系に生息する他の周食型種子散布者より長距離に種子を散布する能力を持つ可能性があると考えられる。