| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA1-127
自家不和合性や近交弱勢を示す植物種においては、個体の繁殖成功度は送粉者によって運搬される花粉の遺伝的組成の影響を強く受ける。虫媒の植物種では複数の昆虫種によって送粉が行われる場合があるが、花資源への依存度や分散(飛翔)能力などの生態特性の違いによって、運搬される花粉の遺伝的組成は訪花昆虫種ごとに異なることが予想される。また、昆虫種の訪花パターンは開花個体密度によっても影響を受けるため、運搬される花粉の遺伝的組成は個体群内の開花フェノロジーによっても変化すると考えられる。
本研究では、渓流沿いに生育するキシツツジを対象に訪花昆虫の採集を行い、付着花粉の遺伝解析によって訪花昆虫種ごとの送粉特性を評価するとともに、その季節変化を把握した。なお、多くの植物種では、葯内の花粉母細胞の減数分裂を経て花粉四分子が形成された後、分離して4つの花粉粒が形成されるが、ツツジ科植物では4つの花粉粒が分離することなく四集粒と呼ばれる花粉粒の集合体が形成される。この四集粒は花粉親と同じ遺伝子型を持つため、花粉の遺伝解析による花粉親の特定が容易で、訪花昆虫ごとの送粉パターンを直接的に測定することが可能となる。
キシツツジの主要な訪花昆虫としては、アゲハチョウ科昆虫とハチ類が観察されたが、アゲハチョウ科昆虫の訪花が開花期間を通じて確認できたのに対し、ハチ類の訪花は開花個体数の多い時期に限定したものであった。本発表では、訪花パターンの異なる2つの昆虫種グループについて、7マイクラサテライト遺伝子座を用いて昆虫体表付着花粉の遺伝解析を行うことで、キシツツジの送粉共生系について考察する。