| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-138

対流圏オゾンが植物個体のバイオマスに及ぼす長期的影響-丹沢山地のブナ(Fagus crenata)を例として-

*諏訪広樹(横浜国大・院・環境情報)

対流圏オゾンが樹木の生長を抑制することが、室内や野外の実験(武田ら 2007ほか)により明らかにされており、森林衰退の原因の一つとして挙げられている。一方、寿命の長い樹木に対して、全生活史にわたる長期的影響の研究はほとんど行われていない。そこで本研究では、丹沢山地の一部で衰退しているブナを対象とし、個体バイオマスへの長期的な影響を検討するため、野外調査および数理モデルによる解析を行った。

まず野外調査に基づいてバイオマス‐樹齢のアロメトリー式を作成した。調査地には、ブナの衰退が少なく(山根ら 2007)、比較的オゾン濃度の低い(阿相ら 2007)西丹沢の菰釣山のブナ林を選択した。調査により得た胸高周囲長、コアサンプルから既往研究(Kubo et al. 1998)をもとにバイオマスと樹齢を推定した。次にこのアロメトリー関係に毒性影響を考慮するために、生長阻害率‐暴露年数の関係を推定した。関数は線形、非線形(上に凸・下に凸)の三通りを想定した。このモデルでは、オゾン濃度は2002‐2004年の水準を用い、以下の仮定を置いた。1) 個体は、発芽してから少なくとも樹齢300年、オゾンによる生長抑制を受けながら生存する。2) 樹齢の増加に伴って毒性影響は減少する。さらに武田らの実験現場で高濃度地域である西丹沢の犬越路隧道脇で野外調査し、これより得たブナ(n=11, 樹齢10年)のデータを加味してモデルの妥当性の向上を図った。

以上から、樹齢300年時点のブナのバイオマスは、オゾン非考慮に対して10‐40%の抑制、種子生産が樹齢60年から開始されるとした場合のバイオマス比較では、5‐25年の遅延が示唆された。この結果は、オゾンの慢性的な曝露によって繁殖の阻害および樹勢の衰退を及ぼすことが定量的に示され、個体群への影響を検討していく上での基礎的な知見になるものと考えられる。


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