| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA1-163
平城京(西暦784年),平安京(西暦794年)が造営されて以来,1200年間にわたり,奈良,京都の古都周辺に人が集まり,人口密度の高い状態が続いてきた。したがって,これらの地域を中心とする近畿地方では,アカマツ,ナラ類,クリ,シデ類などを主とする現在の植生は,木材利用,燃料・肥料の採取などの連続した人間活動の結果として発達してきたと考えられる。本研究では,様々な人間活動の結果の一つである火と植生の歴史を明らかにするため,近畿地方の13カ所から堆積物を採取し,花粉分析,植物珪酸体分析,微粒炭分析を行った。対象地域は,丹後半島,丹波山地,京都盆地,琵琶湖周辺低地帯と奈良の山地である。その結果,次のような変化を認めた。1.原植生の主要構成種の減少,2.陽性植物の増加,3.大陸から導入されたイネ,ソバなどの農作物の出現,4.微粒炭の増加。原植生は,京都盆地や琵琶湖周辺では常緑広葉樹林にスギが伴っていた。丹後半島ではスギ,奈良に近い山地ではモミを中心とする植生であった。ほとんどの地域で,1200-1000年前(cal yr BP)には,原植生の主要構成種は減少し,一方,マツ,落葉ナラ類,イネ科草本などの陽生植物が増加した。その後,これらの森林は,主にマツ,落葉ナラ類,クリ,シデ類などから成る森林へ変化した。京都盆地では,平安京造営の直前の1300年前に,常緑広葉樹が二次林に変化し始めた。琵琶湖周辺の低地帯では,約2500年前に稲作が始まり,火事が頻発していた。丹後半島では,ソバ属(Fagopyrun)花粉の連続出現と微粒炭の増加から,約1000年前には焼畑が始まったことを示している。