| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA2-472
環境変化に応じて、同一ゲノムの中で表現型を可逆的に変化させる生物の性質を表現型可塑性という。捕食者と餌生物の「食うー食われる」関係において、捕食者による摂食圧が高くなると(或いは高くなる前触れがあると)餌生物は防衛形質に富む表現型を発現させる。これを誘導防衛(inducible defence)という。
淡水に住む緑藻であるイカダモ(Scenedesmus)は、捕食者である動物プランクトンのミジンコやワムシが出すカイロモン(シグナル物質)に反応して群体(colony)を形成することで知られている。細胞が連結しているあたかもイカダのような群体は一細胞単独でいるときよりも全体として大きくなり、捕食者に食われ難くなっているようである。故にイカダモは誘導防衛を行っていると言えよう。
餌生物が捕食者の増減によって可塑的に防衛形質の強弱を変化させているのであれば、自然界における「食うー食われる」関係は誘導防衛によっても変化させられていることになる。故に誘導防衛を詳しく知ることは、自然界の「食うー食われる」の個体群動態をより的確に記述することにつながるだろう。
本実験ではワムシのカイロモンを用いてイカダモの誘導防衛を観察した。実験は複数種、或いは複数遺伝子型のイカダモに跨がって行い、それぞれが示す誘導防衛の反応基準(reaction norm)を比較した。これにより、誘導防衛の現れ方に遺伝的変異が存在することが示された。今回示されたデータは、今後のミクロコズムを用いて行う、反応基準の違いが「食うー食われる」の個体群動態にいかに影響しているかを調べる実験の基礎となろう。