| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA2-473

日本列島におけるマムシグサ群の多様化と交雑

*柿嶋聡, 東馬哲雄, 邑田仁(東大・院・理・植物園)

サトイモ科テンナンショウ属マムシグサ群は認識されているほとんどの形態的に分化した種が日本固有であることから、日本列島において多様化したと考えられている。一方で、種間の遺伝的な分化はきわめて小さい。そのため、マムシグサ群は日本列島において適応放散的な種分化をしたと考えられている。また、自然集団において複数種の中間的な形態を持つ個体が存在し、種間の人工交配が容易であることから、野外で種間交雑が生じていることが推測されている。海洋島などにおける適応放散では種間交雑が重要な役割を果たしたことが指摘されていることから、日本列島におけるマムシグサ群の多様化においても種間交雑が関与している可能性が考えられる。

本研究では、マムシグサ群の種間における交雑の実体を明らかとするため、広域分布種ホソバテンナンショウ(Arisaema angustatum 以下、ホソバ)、伊豆半島の固有種イズテンナンショウ(A. izuense 以下、イズ)、形態がホソバとイズの中間的な個体(以下、中間型)に注目した。交配実験と開花フェノロジー調査により、ホソバとイズが実際に野外で交配可能であることが明らかとなった。マイクロサテライト多型解析と葉緑体DNA多型解析の結果、中間型はホソバとイズの両方向性の交雑により生じた雑種後代であることが示唆された。中間型の見られる集団ではイズは見られず、一部のホソバ・イズ混生集団でホソバからイズへの葉緑体DNAハプロタイプの一方向性の浸透が見られた。地理的な情報を考慮すると、広域分布種ホソバの南下に伴うイズとの接触時間が交雑の程度に影響していることが示唆された。これは種間交雑により片方の種が雑種に置き換わる過程を示しており、交雑がマムシグサ群の多様化に関与することを示唆するものである。


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