| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA2-483
昆虫類をはじめとする多くの生物で見られる雌の多回交尾を巡って、雄は他雄との精子競争を避ける方向に強い選択圧が働いた結果、様々な戦術を進化させている。一方、雌に対しては雄の適応的戦術から被るコスト(捕食圧の増加、寿命の短縮、多回交尾の利益の損失など)を下げる方向へ選択圧がかかる。この雌雄間で逆方向に働く選択は、性的対立を生み出す。雌に不利な雄の適応的変化に対し、雌は対抗適応し、それに対し雄は更に適応する拮抗的共進化により、雌雄の形質に軍拡競走が起こっていると考えられている。コバネヒョウタンナガカメムシTogo hemipterus雄は射精の際に交尾抑制物質を送り込むことで、雌の再交尾を遅延、抑制させている。このような雄由来の物質は雌にとっては異物であり、しばしば“毒”になりうる。それに対し、雌はそれを分解する酵素を作るなど何らかの対抗戦術を採ることで、雄の適応的戦術に対抗適応し、それに対する更なる雄の適応、雌の対抗適応が繰り返される拮抗的共進化が起こっていると考えられる。本種は通常、短翅型で移動能力が低く、個体群間で遺伝子交流が少ないと考えられるので、拮抗的共進化の程度が隔離された個体群ごとで異なっていると考えられる。そこで岡山個体群と京都個体群を用いた個体群間交尾によって拮抗的共進化にギャップを生じさせた。その結果、京都雌が岡山雄の射精物である“毒”に対抗適応できなかったために、著しく寿命が短縮した。岡山個体群、京都個体群それぞれで独自の拮抗的共進化が進んでいることが示唆された。