| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA2-490
生物が新しい形態や機能をどのように獲得するかを明らかにすることは、進化生物学における主要な問題のひとつである。特に複雑な形質の進化が一度の突然変異によって生じるのは難しく、多くの変異が組み合わさって可能になる。しかし、そのような形質は、次第に適応度の高いものが選択されて漸進的に進化すると仮定することは難しく、進化の中間段階では有害あるいは中立になると考えられる。このような、適応度の谷を越えて初めて新しい機能を獲得するような進化はどのような機構で起こるのだろうか。
転写因子とそれによって制御される遺伝子が形成する複雑な遺伝子制御ネットワーク(GRN:Genetic Regulatory Network)の構造変化は、制御下流の遺伝子群が発現する場所・時期・組み合わせを変化させることで不連続な表現型変異をもたらすことがある。しかし有益な突然変異が起こることはまれであり、大部分を占める有害変異は自然選択により排除され、中立変異がある割合で集団中・集団間に保持される。このように通常は表現型に影響を与えないまま保持される中立変異(CGV:Cryptic Genetic Variation)が、少しの遺伝的・環境的変化を受けて多くの表現型多型を生み出すことで、適応的な新規形質を生じる可能性が高まるという仮説がある。
本研究では、GRN構造レベルのCGVがどの程度集団中・集団間に蓄積し、新規形質獲得に寄与するか、個体ベースモデルを用いて検証した。