| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA2-612
近年多くの生物において、人為的な持込による遺伝的攪乱が問題視されている。遺伝的攪乱とは、外来種が在来の近縁種と交雑を起こし、近縁種の遺伝子構成に影響を与えることである。地理的に隔離され、集団間で遺伝的分化のある種では、遺伝的攪乱が種内レベルでも起こりうる。したがって、生物を移動させる際には、同種であっても注意を要する。
海洋島である小笠原諸島には、独自の進化を遂げた固有種が多く存在し、広域分布種でも大陸の集団と遺伝的に分化している可能性が高い。ところが、父島北袋沢の道沿いには琉球由来のセンダンが5個体植栽されている。センダンは、日本の四国・九州・琉球・小笠原と中国に分布する広域分布種で、小笠原諸島のほぼ全域で生育し、植栽個体周辺にも自生個体が分布する。隣接したこれらの集団間で交雑が生じた場合、小笠原諸島の自生集団に遺伝的攪乱を引き起こす可能性がある。本研究では、種内変異の程度を明らかにし、さらに父島における自生/植栽個体間の交雑の有無を調査した。
遺伝的分化を調べるため、小笠原の自生/植栽個体、九州・琉球の自生個体、合計約400個体について、9遺伝子座のSSRマーカーを用いて解析した。形態的差異を調べるため、父島の自生/植栽個体の花と果実を計測した。また、自生/植栽個体間の交雑について調査するため、開花期調査と種子集団の父親判定を行った。
その結果、小笠原の自生集団は、父島の植栽集団や他地域の自生集団と遺伝的に大きく異なることが分かった。父島の自生/植栽個体の果実の形が異なっており、形態的に分化している可能性が示唆された。また、開花期にはずれがあり、植栽集団が早く開花したが、一部重なっていた。これまでに約400サンプルの種子集団を解析し、自生/植栽個体間の交雑は検出されていない。低頻度で交雑している可能性に考慮し、現在サンプル数を増やして解析を進めている。