| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA2-614
生態系に複数の外来種が存在する場合、外来種と在来種の間だけでなく、外来種間にも捕食被食関係があることが多い。この場合、外来被食者の密度が低下すると、それを餌としていた外来捕食者が在来生物を多く捕食するようになるなど、在来生物への影響が変化することも考えられる。そのため、外来種対策を考える際には外来種間の相互作用を明らかにする必要がある。
アメリカザリガニは捕食や資源競争、水生植物の切断により在来生物群集に大きな影響を与える侵略的外来種である。日本におけるザリガニの捕食者は、カムルチーのような大型魚類やウシガエルなど、外来種である場合が多く、複数の外来種が相互作用している典型例といえる。このような系でザリガニの潜在的捕食者である外来種を駆除する際には、在来生物への影響を予測するために、ザリガニや在来生物に対する外来捕食者の依存度を事前に評価する必要がある。
ザリガニの影響を強く受ける在来生物の代表としてトンボ類のヤゴが挙げられる。ヤゴは、ザリガニによる直接的な捕食と、隠れ家や産卵場所となる水生植物の切断という環境改変の両者の影響を受けるため、絶滅の危機に瀕している種も多い。水生植物がザリガニのヤゴへの依存度を軽減するならば、水生植物の保全は、ヤゴにとっても重要となる。
本研究では、ヤゴ保全のための外来種管理方針を定めることを目的とし、安定同位体分析によって食物網構造を推定した。さらに、その結果からザリガニを餌として利用している可能性の高かったカムルチーについて、ザリガニや在来生物に対する捕食効率を調べる実験を行った。その結果、カムルチーはザリガニに強く依存していた。また外来植物オオカナダモの生育域では、ザリガニのヤゴへの依存度が低かった。以上のことから、希少なトンボ類の保全のためには、カムルチーとオオカナダモは現時点では駆除しない方が良いと考えられる。