| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA2-629
外来草食獣がもたらす直接的な食害は、在来植物、特に島嶼の固有種や希少種の存続にとってかなりの脅威である。環境省は2005年に外来生物法を施行し、我が国では千葉県房総半島および伊豆大島に侵入・定着している南アジア原産のキョンMuntiacus reevesi(シカ科)を特定外来生物に指定した。一方、本種による在来植生への影響についての基礎情報は限られており、生態系保全・管理のための効率的な調査・評価手法の開発は緊急課題である。伊豆大島にはニホンジカが分布しないためキョンの植食跡が特定し易いこと、キョンの定着が顕著な島東部の照葉樹林の対象区として、島西部にはキョンの定着の及んでいない同等な履歴の林分が残存し、林床植生の食害状況を比較可能なこと、及び生物地理学上重要な位置にあるスダジイ林に依存した希少ラン科植物が分布するなどの条件により、本研究では伊豆大島においてキョンによる林床植物の食害の影響を簡易的に評価する手法を考案してきた。住民ヒアリングおよび現地踏査によりキョンが生息する森林環境を特定し、空中写真解析により土地利用変遷、植生等環境要因が類似する照葉樹林をGISで抽出し、採植痕調査および林床植生の組成・構造比較を行った。結果、昨年度食痕が確認されていなかった生息予測範囲の林床において新たに糞粒やスダジイ稚樹への食痕が確認され、絶滅危惧II類のラン科植物への食害および蹄による損傷も確認された。林床植生の組成・構造も、島東部では西の対象区に比べ著しく乏しくなっており、被害度は全天空写真の樹冠空隙率でも顕著である。長期にわたる選択的食害圧は、既に低木種や林冠形成種の後継稚樹の欠損など、林分構造や構成樹種の偏りを引き起こしている。島西部のスダジイ林の林床植生の優先的な保護および島東部のスダジイ林の更新・林分構造の回復に向け、優先的なキョンの駆除や長期的な観測が必要なことが示唆された。