| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA2-639
低い個体群密度において個体群の成長速度が抑制されることを、アリー効果という。外来生物の個体群動態に関して、それまで低い密度に抑えられていたものが急激に高密度に達することがしばしば見られる。このような急激な個体群密度の増加は、アリー効果を考えた個体群動態モデルから予測できる。すなわち、強いアリー効果のもとでは、同じ環境条件において低い個体群密度と高い個体群密度が共に安定な状態となり、大きな攪乱や移入圧(propagule pressure)の増加によって、低密度から高密度への安定平衡状態の移行が起こっているのかもしれない。このような双安定な平衡状態間の推移はレジーム・シフトとよばれ、湖沼などの生態系動態や気候変動ではよく知られた現象である。また、レジーム・シフトが起こることを前もって予測しそれを未然に防ぐために、レジーム・シフトの予兆警報の開発が進んでいる。本研究では、アリー効果を受ける外来生物個体群の急激な密度増加をレジーム・シフトとしてとらえ、その予兆警報の開発の可能性を探る。レジーム・シフトが起こる前には状態変数の変動が大きくなり、それが状態変数の分散の増加や歪度の変化、復帰速度(return rate)の減少となって現れることが指摘されている。そこで、アリー効果を組み込んだ外来生物個体群動態の確率微分方程式を使い、移入圧の増加が引き起こす低密度から高密度へのレジーム・シフトの際に、個体群密度の分散や歪度、復帰速度がどう変化するのか調べた。その結果、個体群密度の分散の増加が、歪度や復帰速度の変化と比べて、レジーム・シフトの予兆警報としてより信頼できることがわかった。この結果は今後実際のデータを用いて検証を進め、その現実的な有効性を検討する必要がある。