| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PB1-232
分散前種子食害は,種子生産数の減少や種子の質低下を引き起こし,植物個体の繁殖成功に負の影響をもたらす(Crawley 1989; 1992).ほとんどの分散前種子食者は小昆虫であるため(Crawley 1992),天敵による種子食者の捕食(捕食寄生含む)は無傷種子の増加につながる(e.g. Gomez & Zamora 1994).天敵による捕食はこの様な種子数の増加の他に「食害された種子の質の向上」にも寄与するかもしれない.食害を受けた種子が発芽能力を保持している例は多くの植物で知られ(e.g. Vallejo-Marin et al. 2006),天敵による種子食者の死亡により,こうした種子の発芽力は更に高められると思われる.
マメ科植物ハマエンドウの分散前種子食昆虫クロマメゾウムシは,野外で多くの天敵寄生蜂からの攻撃を受ける.本研究では,マメゾウ成虫が出現した種子と,マメゾウ幼虫の寄生蜂2種(Dinarmus sp.とPteromalus sp.)が出現した種子の間で発芽率の比較を行なった.その結果,寄生蜂出現種子の発芽率(Dinarmus: 37.0 %; Pteromalus: 67.4%)はマメゾウ成虫出現種子(21.2%)よりも高かった.また,マメゾウ幼虫による種子食害量は,マメゾウ出現種子(16.6 ± 0.2 mg)よりも,寄生蜂出現種子(Dinarmus: 9.6 ± 1.2 mg; Pteromalus: 9.9 ± 1.1 mg)で小さく,寄生がマメゾウ幼虫の種子食害を抑制する効果が認められた.このことは,種子食昆虫の天敵による「発芽率の向上」という形での植物の適応度への貢献を意味する.また,大きな種子ほど食害耐性が高かったのに対し,寄生蜂の利用できる種子は小さいものに限られる等,種子サイズに対する相反する選択圧も検出された.