| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PB1-239
相利共生関係にある生物同士は、両者が互いに相手を搾取しながらも、それぞれが結果的に利益を得ている状態にあると捉えることができる。したがって、一方の過剰な搾取により、他方のコストが利益を上回れば、やがて共生関係は崩壊するだろう。相利共生系が進化的に安定であるためには、こうした相手の過剰な搾取を抑制するような機構の存在が不可欠であると考えられてきた。
コミカンソウ科カンコノキ属の植物は、それぞれの種に特異的なホソガ科ハナホソガ属の雌に送粉されている。ハナホソガは送粉と同時に雌花に産卵し、孵化した幼虫は一匹あたり果実内の種子を約半分食べて成熟する。このように両者は互いに繁殖を依存し合った共生関係にあるが、もしハナホソガがすでに卵を産みつけられた雌花に産卵した場合、孵化した幼虫に種子が食べ尽くされ、カンコノキは種子を残せなくなる可能性がある。カンコノキには、ハナホソガによるこうした過剰な搾取を抑える機構が存在するのだろうか?
我々は、カンコノキ属の一種ウラジロカンコノキにおいて、より多くの卵が産みつけられた雌花が、より高い確率で落とされていることを見いだした。重複産卵を受けた雌花を選択的に中絶することにより、植物は種子が残る見込みの少ない果実への無駄な投資を省くことができると考えられる。実際、雌花がランダムに落下すると仮定した場合に比べ、この選択的中絶によって種子生産は23.2%増加していた。一方、ハナホソガが重複産卵をした場合、産卵した雌花が落とされる確率は9.7%高まることから、選択的中絶は重複産卵への制裁を介して、雌花への重複産卵を回避させる選択圧として働いている可能性がある。