| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB1-246

ミズナラにおける開花雌花数と健全堅果落下数の樹木個体間および林分間比較

*夏目暁子(名大院生命農), 水谷瑞希(福井県自然保護セ),肘井直樹(名大院生命農)

堅果により更新する樹種において,結実量とその変動パターンを把握することは,広葉樹林の育成技術の向上や,野生動物個体群の適正管理を可能にする.このため,冷温帯の優占樹種であるミズナラを用いて,堅果の結実量およびそれに影響する要因を定量的に明らかにすることを試みた.そのために,雌花が樹上に着生する春先から堅果の落下終了まで,各樹木個体の樹冠下にシードトラップを設置し,個体ごとの雌繁殖器官の季節的な落下パターンを,約30 km離れた2林分において調査した.

その結果,健全堅果の落下の程度(落下数,量)は,雌花期に各個体の樹上で生残した雌繁殖器官数に関係なく,林分間で大きく異なっていた.まず,雌花期の落下パターンは,林分間では差がなく,個体間では大きく異なっていたが,全調査木の約4分の3では,個体ごとの開花雌花数および雌花期の落下数は毎年同程度であった.そのため,雌花期における雌花の落下の程度は,個体ごとにある程度決まっている可能性がある.次に,成長期において,健全堅果となるまでの過程で堅果が落下・死亡する主な要因は,数的には発育不全,量的には種子食昆虫による強度の摂食(虫害)であった.また,虫害時期に落下した虫害堅果数および虫害堅果サイズの経時変化は林分間で大きく異なっていたことから,虫害の時期は林分間でずれていたことが示唆された.これらのことから,成長期においては,堅果の成熟フェノロジーと,その地域に存在する種子食昆虫の堅果利用時期が,健全堅果の落下の程度に大きく影響していることが示唆された.

各個体における雌花期の落下の程度が年ごとにほとんど差がなかったのに対し,健全堅果の落下の程度は林分間で大きく異なっていたことから,健全堅果の落下には,成長期における2つの死亡要因が大きく影響することが示唆された.


日本生態学会