| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PB1-252
2004年秋に,北陸地域を中心としてツキノワグマの大量出没が発生した.クマ類の大量出没の誘因として,クマの秋期の主要な餌であるブナ科樹木の堅果の凶作が関与していることが推測される.このため,これら堅果の豊凶を事前に把握することにより,クマ大量出没の発生をあらかじめ予測できる可能性があることが指摘されている.
これを受けて,北陸3県ではそれぞれ,ブナ,ミズナラ,コナラを対象とした豊凶モニタリング調査を2005年から実施している.豊凶の調査・評価手法は県によって異なるものの,個体レベルの作柄においては,調査結果の相互比較が可能である.今回は,個体ごとの作柄を,並作以上,不作以下,着果なし,の3段階に集約して,2005年から2007年までの3年間の調査結果を解析した.なお,この間の2006年にはクマ大量出没が再度発生した.
主に高標高域に分布するブナ,ミズナラの作柄は,2006年に著しく不良であった.一方,主に低標高域に分布するコナラは,県域レベルの作柄の年次変動が小さく,2006年にも極端な作柄の悪化はみられなかった.これらブナ科樹木3種の作柄の傾向は,3県とも共通であった.以上の結果から,広域的なブナ,ミズナラの作柄不良に起因する山地の餌不足が,2006年のクマ大量出没の引き金となったことが推察された.
クマ大量出没は,広域的なスケールで同調的に発生することが知られている.各都道府県において,調査結果の相互比較が可能な方法でブナ科樹木の豊凶モニタリングを実施することにより,クマ大量出没とブナ科樹木の豊凶との関係が,より明確になることが期待される.