| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PB1-257
植食性昆虫による食害は、様々な生態系プロセスに影響を与える。そのうちの1つは、糞の落下による土壌の栄養塩動態の変化である。土壌表面に落下した植食性昆虫の糞は、落葉などの植物遺骸に比べると分解されやすく、有機体窒素の無機化または不動化などのプロセスに大きな影響を与えることが明らかになっている。これらの研究の多くは、森林生態系を対象として行われてきたが、一般化のためには異なったシステムでの研究も必要である。
近年の農業生態系では、過剰施肥による植物体への硝酸イオンの高濃度な蓄積が問題となっている。従属栄養生物である植食性昆虫は、植物に含まれている硝酸態窒素を栄養として利用する事ができないため、植食性昆虫に摂取された硝酸イオンは消化管を通して速やかに糞として排出されることが予測できる。そこで本研究では、コマツナ−ヨトウガをモデルシステムとして、植物に蓄積された硝酸態窒素が植食性昆虫の糞を介して植物に再吸収されるかどうかを検証した。
その結果、1)コマツナの葉に含まれる硝酸イオンは過剰施肥によって増加した。2)過剰施肥で生育したコマツナを摂食したヨトウガの糞には、高濃度に硝酸イオンが含まれていた。さらに、これらの糞にはアンモニウムイオンも高濃度に含まれていた。3)ヨトウガの糞をポット植えのコマツナの土壌表面に散布したところ、コマツナの地上部バイオマスと葉中の窒素濃度が増加した。しかし、地上部バイオマスに含まれる総窒素含量の増加は、散布時に糞に含まれていた無機態窒素の含量だけでは説明できなかった、ことなどが明らかになった。これらの結果から、過剰施肥下における農業生態系での窒素動態に対する植食性昆虫の潜在的な影響を議論する。