| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PB1-266
渓流生態系の生物生産は,リン(P)によって制限されている場合が少なくない。渓畔域から流入する落葉リターは渓流生物群集の主要な炭素(C)源であると認識されているが,水中の栄養塩濃度が低い上流河川においては,窒素(N)やP源としても重要となる可能性がある。また,渓流食物網における落葉破砕食性昆虫(シュレッダー)の役割は,リターを細片化し,他の生物の食物となる微細有機物を産出する点が強調されてきたが,リターからの栄養塩を放出する役割については着目されてこなかった。本研究はシュレッダーの無機態P放出者としての役割を生態化学量論の観点から明らかにすることを目的とし,様々なシュレッダー種や落葉リターのC:N:P比の変異,シュレッダーの生存や成長におけるPの重要性,シュレッダーのP排出速度における種間変異について,野外実験と室内実験によって検討する。
落葉リター8樹種を2箇所の渓流地点に設置し,一定期間ごとにC,N,P含有率を測定したところ,C:P比,N:P比は多くの樹種で分解とともに減少したが,初期値の大きな樹種ほど減少率は大きかった。これらと,採集した様々なシュレッダー種の元素比を比較し,各元素の同化効率を考慮すると,C,Nに比べPがシュレッダーの制限元素となる状況は限定的であると予測された。N制限と予測されたシュレッダー2種をP含有率の異なる食物で個別飼育した結果,生存と成長に違いは検出されなかった。また,これらにP制限と予測された1種を加えた3種に,同一の食物を与えてリン酸排出速度を測定した結果,体重あたり排出速度には8倍の種間変異がみられ,N:P比の大きい種ほど大きかった。以上から,シュレッダーは摂食した落葉リターから余剰のPを放出することで,渓流のP循環に重要な役割を果たしており,その役割はN:P比の大きな種ほど大きいと考えられる。