| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PB1-287
機能的冗長性(functional redundancy)の概念は、生態系機能の変化を種の消失と関連づける理論の中心にある。しかし、この背景で種多様性と機能的多様性の関係の本質(生物群集における機能的冗長性の存在の有無)を解明した実証研究例は限られている。とくに、実際の群集における局所的な種の消失がどのように機能的多様性に影響するのかについてはほとんど知られていない。本研究では、モンゴルの放牧地生態系を対象に、放牧傾度に沿った植物群集における種多様性と機能的多様性の関係を明らかにする。各種の機能的特性に基づいた種間の非類似度を考慮した機能的多様性の指数を算出し、種多様性と機能的多様性の関係に対して考えうる数種類のモデルを比較した。結果、緩やかな環境条件下では、種数と機能的多様性の関係はS字型のロジスティック曲線で描かれた。これは、低い種数レベルにおける機能的冗長性から、徐々に種が増えるにつれて急激に機能的多様性が増加し、高い種数レベルでまた機能的多様性が飽和するという二段階の機能的冗長性を表している。逆に厳しい環境条件下では、種数と機能的多様性の関係は正の線形関係となり、機能的冗長性が低いことが示された。観察された機能的冗長性は、種の特性に関する内在的な冗長性、および特性に対してランダムではない群集組成の変化による、外在的な冗長性に起因していると考えられた。これら二つの冗長性のどちらかが欠けると、群集における機能的冗長性は低くなるのかもしれない。本研究で得られた二段階の機能的冗長性は、放牧などによる撹乱の結果、群集がある一定の種数を下回ると急激に機能的特性が失われ、撹乱耐性に関連する特性で特徴づけられる、限られた機能群しかもたない対照的な状態へシフトすることを示唆している。