| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PB2-662
自殖とは、雌雄同体の生物が自らに由来する配偶子同士を受精させる繁殖様式である。自殖性の集団は他殖性の集団に比べて有害突然変異が固定しやすく、絶滅リスクが高いために安定して存続するのが困難であると考えられている。われわれは、自殖性植物であるArabidopsis thaliana において、集団が安定して存続するための条件が満されているかどうかを、以下の2点を踏まえた上で理論的に検証した。
1. 先行研究では自殖集団の自殖率は1であると仮定している場合が多いが、Arabidopsis thalianaは低頻度の他殖を行っていることが知られている。低頻度の他殖が有害突然変異の固定にどの程度影響するかはまだわかっていない。本研究では、この低頻度の他殖の効果を含めて有害突然変異の固定しやすさの見積もりを行った。
2. Lande & Shemske 1985 は、近交弱勢の値が0.5より小さければ自殖が、そうでなければ他殖が進化的に安定な戦略となることを示した。われわれのモデルによると、近交弱勢と有害突然変異率の間には正の相関があり、自殖が安定な戦略となるためには有害突然変異率がある閾値を下回らなければならない。つまり、自殖性の集団では他殖性の集団に比べて低い突然変異率をもっていることが期待される。先行研究では、同じ突然変異率を持つ自殖集団と他殖集団を比較することで自殖集団における有害突然変異の固定しやすさを見積もっているが、実際には前述のような自殖集団と他殖集団の有害突然変異率の差を考慮する必要がある。
結果、低頻度の他殖を行うArabidopsis thaliana の集団は、他殖が安定な戦略となりうる最も低い突然変異率をもつ集団と比較しても明らかに有害突然変異が固定しやすいとはいえないことが示唆された。