| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PB2-667
サトイモ科の林床性多年生草本コウライテンナンショウは、花をつけない無性個体から雄花のみをつける雄個体へ、さらに雌花のみをつける雌個体へと変化する。その性表現は雌個体から雄個体へ、雄個体から無性個体へも可逆的に変化することが知られている。
雌雄異株植物の繁殖には雄個体から雌個体への花粉の受け渡し(送粉)が必要である。コウライテンナンショウではキノコバエなどの小型昆虫によって送粉が行われていることが報告されている。雌雄異株植物では、雌個体の結実が雄個体からの距離や周囲の雄個体の密度など、雄雌個体の空間分布に影響を受けると考えられる。
本研究はコウライテンナンショウの空間分布と結実の関係を明らかにすることを目的として行った。野外調査は北海道恵庭市郊外の自生地集団で行った。まず、雌個体(22個体)について強制受粉処理を行ったところ46%の結果率を示し、無処理個体(28個体)の結果率(21%)より顕著に高かった。さらに、集団内に50m×50mの調査区を設置し、調査区内の全有性個体の位置、性別、個体サイズ(偽茎直径)、結果率を記録した。調査区内には雌個体が28個体、雄個体が170個体存在し、雌個体の平均偽茎直径が18cm、雄個体が12cmと、雌個体の方がより大型であることが示された。また、雌個体の結果率とその個体から最も近い雄個体までの距離との関係を調べたところ両者の間には相関は認められなかった。しかし、雌個体の結果率とその個体の周囲10m以内に生育する雄個体の数(雌個体の周囲の雄個体の密度)との関係を調べたところ両者の間には負の相関が認められた。
以上のことより、コウライテンナンショウの結果率には花粉制限が働いており、その花粉制限は雄個体の不足によるものではなく、ポリネーターの動きが雌雄個体の空間分布に影響を受けていることによると考えられる。