| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PB2-675
樹木の形状は、光や炭素の獲得、樹高成長速度といった機能の重要な決定要因であると考えられてきた。しかし、樹形と成長特性の関係を直接検証した例は非常に少ない。両者の関係を検証するため、本研究では、ボルネオの熱帯雨林において、多様な地上部構造をしめす樹木の稚樹16種の成長特性を2年4ヶ月間測定し、その構造と比較した。
年間純生産量は種間で有意に異なり、地上部総乾燥重量、総葉面積、樹冠投影面積と正の相関を示した。しかし、純同化率(NAR)はこれらの構造的形質と弱いながらも負の相関を示した。純同化率は、個葉面積、比葉面積(SLA)とは、ほぼ無相関であった。重量ベースの相対成長速度は、どの構造的形質とも強い相関を示さなかった。
樹高成長の重要な決定要因であると考えられてきた地上部総重量が種間で約4倍異なるにもかかわらず、相対樹高成長速度には有意な種間差が見られなかった。これは、地上部総重量が大きな種では、総葉面積や樹冠投影面積も大きく、それらがもたらす大きな純生産が伸長コストを相殺するためである。樹高成長速度との関係が指摘されてきた個葉サイズや比葉面積をふくむその他の構造的形質も相対樹高成長速度と有意な相関を示さなかった。
これらの結果は、樹形の種間差により、樹高成長速度と光の獲得の間のトレードオフ関係が生じるという広く知られた仮説に否定的である。一方で、地上部総重量やそれにともなう構造的形質の種間差は、大きな純生産量と小さな純同化率をあわせ持つ種とその逆の形質を示す種の間の機能的変異と相関を持っており、この機能的変異を介して更新戦略の分化および多種共存に貢献している可能性がある。今回の研究では、ギャップにおける成長特性は測定できなかったが、より明るい環境においては、構造と機能の関係が異なる可能性があり今後の課題である。