| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC1-387

アカネズミ個体群はダイオキシン汚染耐性を獲得しているのか? -遺伝子型頻度からみた汚染の影響評価-

*石庭寛子, 関島恒夫(新潟大学・院・自然科学)

生物は絶えず変化する環境の中で、高い適応度を持つ形質が選択的に次世代へ残されていく。最近では、これまでの自然環境の変化に加えて人為的な環境改変も生物の適応度に大きな影響を与える。1960年代から取り沙汰されてきたダイオキシン汚染も人為的な環境変化の一つである。ダイオキシン類は枯葉剤や工場排水、ごみ焼却などで人為的に生成されて環境中に拡散する。それらは食物連鎖を通して生物の体内へ取り込まれ、発ガン作用や催奇形性などの多様な毒性を引き起こす。中でも、精子数の減少など生殖能力の低下を引き起こすダイオキシン類のホルモン様作用は、繁殖に密接に関わる毒性を発現させることで、野生生物の適応度に与えるインパクトははかり知れない。

本研究では、日本の森林帯に広く生息している野生アカネズミ(Apodemus speciosus)を対象に、ダイオキシン汚染に対して耐性を獲得し、環境変化に応じた進化が起きているのかを明らかにするために、AhR (Aryl hydrocarbon Receptor)をバイオマーカーとしたダイキシン汚染の影響評価を試みた。AhRはダイオキシンによる毒性発現作用に重要な役割を担う転写因子で、多型によって毒性発現の程度が異なるという特性を持つことから、集団内での汚染耐性獲得の変遷を追跡する上で有効なマーカーとなる。

これまで、アカネズミにおけるAhRの多型解析と機能評価を行い、アミノ酸799番目の多型についてGlnからArgへの置換によるタンパク質の機能の低下がin vitroおよびin vivoの実験で確かめられた。本講演では、アミノ酸799番目のハプロタイプに着目し、ダイオキシン汚染地域及び非汚染地域において捕獲されたアカネズミ個体群の遺伝子頻度解析から、ダイオキシン汚染に対するアカネズミの耐性獲得の可能性を明らかにしたので紹介する。


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