| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC1-390

文献資料に基づいた東北地方におけるニホンジカの過去の生息状況

*伊藤愛(新潟大・院),箕口秀夫(新潟大・農),三浦慎悟(早稲田大・人)

ニホンジカ(以下シカ)は東北地方において1979年の段階で局所的に周年生息が確認されてはいるもののほとんどの地域で生息が確認されていない(哺乳類分布調査グループ、1979)。さらに全国的に分布の拡大が見られる現在においても大きな分布の空白地帯が存在する(環境省、2003)。しかし、分布が確認されていない秋田県男鹿半島や宮城県牡鹿半島北部でも江戸時代には鹿狩り等のシカの生息を示唆する記録が残存している(武藤、1997,毛利・只野、1997)。また新潟県、山形県においても江戸時代のシカの生息を示唆する記述が多く存在することから(伊藤、未発表)、東北地方においてもかつてはシカが広く生息していたと考えられる。そこで本研究では、東北地方におけるシカの過去の分布の解明を目的として文献調査を行った。調査は青森県、秋田県、岩手県、宮城県、および福島県の県立図書館に所蔵されている公共性の高い二次文献を渉猟して、ニホンジカの生息を示唆する記述を拾い出した。先に行った新潟県と山形県を合わせ、1042件の記述が拾い出された。その多くは江戸時代中期から後期にかけてのものであった。これらの記述が示す地名のうち374地点で記述のなされた地域の特定が可能であった。それらは東北地方全域に広く散在し、平野部や盆地、海岸部では集中していることが明らかになった。また、捕獲個体の推移や近世における絶滅要因が記された記述から、東北地方のシカ地域個体群の絶滅には人による狩猟が強く関わっていたと考えられた。


日本生態学会