| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PC1-391
ニホンジカによる森林生態系への影響は全国的に報告されている。北海道の知床岬と洞爺湖中島(以下、中島)では、30年に及ぶ長期モニタリングによって、エゾシカ個体群の爆発的増加と群の崩壊、それに伴う森林植生の変化が追跡されている。この二地域は、シカの高密度化により森林植生へ強い影響を与えたという共通点をもつが、気象、森林、餌資源等の生息地の環境は大きく異なっている。加えて、現在の二個体群を比較すると、知床岬の方が体サイズが大きく、生息密度も高く、それぞれの生息地が支えている個体群の性質も大きく異なっている。そこで本研究では、個体群の性質に違いが生じる原因を明らかにする一環として“餌資源の質と量”による分析を行い、対照的な二地域のシカ生息地を評価することを目的とした。
主な餌資源は、知床岬ではイネ科草本(夏)、ササ(冬)、中島では小型草本(夏)、落葉(年間)である。餌資源の量を調べるため、草本の刈り取り、落葉の回収を行い、現存量と採食量を推定した。また、餌資源の質を調べるため、粗蛋白質含量、繊維含量、熱量の分析を行った。夏の草本の現存量については、知床岬は大量にあり、中島はわずかであった。中島では落葉は年間を通して重要な餌資源であるが、特に初夏の落葉は大変高質で、採食率も高かった。また、知床岬のササは冬の餌資源として高質であることがわかった。つまり、中島では高質で大量にある落葉によってシカ個体群を維持していること、さらに、冬に厳しい気象条件である知床岬では夏に大量にある草本と冬に高質なササを利用することによって高密度でかつ体サイズの大きなシカ個体群を支えていると示唆された。シカ個体群の性質には、餌資源の質と量が関係していることがわかり、シカの生息地評価において餌資源に注目することは重要であると言える。