| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PC1-395
北海道東部に生息するタンチョウGrus japonensisは,1900年代初頭に絶滅の危機に瀕したが,給餌等の保護活動により2008年1月には1,200羽(タンチョウ保護研究グループ調べ)を超えるまで個体数が回復した。しかし,個体数の増加にともない,事故死亡率の増加,繁殖地や越冬地における環境収容力の限界,越冬期における給餌場での過密化,農業被害など,さまざまな問題が生じている。したがって,北海道のタンチョウ個体群を保全する上で,将来における個体群の変化を予測することが重要となる。
過去の個体群存続性分析では,2004年までの調査データに基づき齢段階行列,繁殖率の変化,事故死亡率の増加,環境収容力の変化等,いくつかの条件下でシミュレーションを試行回数10,000回,期間100年で行った。その結果,繁殖率だけが大きく減少しても個体群サイズに大きな影響はなく,100年間での絶滅確率は0であったが,事故死亡率が増加し続けた場合は個体群サイズが大きく減少し,絶滅確率が発生した。
本研究では,過去の研究に最新データを追加し,同様のシミュレーション実験を行った。齢段階行列で使用する生存率および繁殖率は標識個体の追跡調査データ(1988〜2007年)および越冬期における個体数データから算出した。過去の研究と同様に,将来の個体群に影響を与えると考えられる要因として,繁殖率の変化,事故死亡率の増加,環境収容力およびカタストロフィを考慮した。なお,事故死亡率の増加については,釧路市動物園に収集された死体,あるいは重傷を負ったツルの昨年度までの個体数から概算した。
最新のデータを追加した本研究と過去の研究結果との比較・検討を行い,タンチョウの絶滅リスクがどのように変化したかを明らかにし,今後のタンチョウ保全の課題について議論する。