| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PC1-410
個体群の時系列データから個体群の状態変化を推定しようとする方法の検討は,多くの応用生態学で必要とされているだけでなく,生態学の基礎的な理解にとっても重要な問題である.この発表では,日本ウミガメ協議会が 50 年間以上のウミガメ上陸観察によって蓄積したデータを使って,この問題をうまくあつかう方法について議論したい.
今回の解析では太平洋側の 6 箇所のウミガメ上陸観測地点で得られた上陸数の時系列データを解析するために新しく階層ベイズモデルのひとつである一般化状態空間モデルを開発した.これによって,ウミガメ (メス) 上陸数という観測データの背後にあるウミガメ密度や個体群増減速度の時間変化をデータにてらしあわせて推定できる.同時に,全観測地点に共通する年変動や上陸地点ごとの random effects も仮定することで,年ごとの気象変化や上陸観察海岸ごとの無方向なばらつきも考慮した,より現実的な統計モデリングとなっている.
観測データを使った Markov chain Monte Carlo 法によって,この階層ベイズモデルの諸パラメーターの事後分布を推定した.年変動する繁殖活性に関して全国共通の年変動らしきものが存在し,何らかの要因でウミガメ繁殖活性が広い範囲にわたって同調している可能性も示された.ただし,観測地点ごとに大きな不確定性があることも示された.これらの変動にくらべて対数成長速度や対数密度の確率論的なばらつきはかなり小さく,観測された期間内のウミガメの個体群密度の変動そのものは急激なものではなかった,と推定された.しかしながら,その変化の方向は観測地点ごとに異なっていて,地点によっては上陸数が減少傾向にある可能性が示された.