| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PC2-820
ベニイトトンボCeriagrion nipponicum は本州に広く分布するが、生息地は局所的であり絶滅危惧種に選定されている。しかし、生態について不明な点が多く、具体的な保全策などもなされていない。本研究では、主にベニイトトンボ成虫について標識再捕法を中心とした個体数推定を行ない、生息状況の解明と保全に役立てるとともに、指標種および象徴種としての有用性を検討することを目的とした。調査は奈良市中町の矢田丘陵に位置する近畿大学奈良キャンパスで晴れまたは曇の日に1時間行なった。2006年から2008年の各6月から10月にかけて行い、さらに外来種ブルーギルによる捕食圧の状況を把握するとともに、ベニイトトンボ個体群動態を気温の関係などについても考察した。成虫の生息環境については水草や周辺植生の状況と本種の生息を比較し近畿地方のため池43ヶ所で調査を行なった。本研究から当地においてベニイトトンボは1年間に650〜2800個体が羽化しているものと推定され、高温期に減少する年2化性である可能性が示唆された。成虫の生息には産卵基質となる水生植物と、未成熟な個体が成熟するまで利用するブッシュが必要であることが示された。さらに、ブルーギルの胃内容物は大半がユスリカで占められており、ベニイトトンボへの大きな捕食はみられなかった。また、幼虫には水生植物やその根系が生息場所や餌場として非常に重要であり、外来魚の捕食圧を軽減させる効果が示唆された。近畿地方のため池を調査した結果、ベニイトトンボの生息する水域は、周辺植生と水生植物が豊かなため池が多い傾向がみられた。これらのことから、連続した水系の必要性が示唆され、本種はため池の指標種および象徴種として非常に有用であると考えられた。