| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC2-826

東邦大学習志野キャンパスにおけるキシノウエトタテグモの分布と初期分散の一例

*中西亜耶,長谷川雅美(東邦大院・理・地理生態)

環境省RDB準絶滅危惧種のキシノウエトタテグモLatouchia typicaは地表の撹乱が少ない土地に多く生息し,地面に掘った扉つきの巣穴に住む地中性のクモである.移動分散においては他の多くのクモ類のように空中飛行を行わないため,比較的移動距離が制限されやすいと考えられる.本研究では,これまでに本種の生息が多数確認されており,良好な生息地と思われる東邦大学習志野キャンパスにおいて,環境要因と関連付けた分布と,仔グモが親巣から独立営巣する際の初期分散距離を調べた.

分布調査ではまず構内を10m×10mの区画で分け,そのうち土の露出した地面が含まれる898区画を,土の露出度(3段階)と樹木や建造物による日照の遮蔽度(3段階)の組み合わせにより9つの環境区分に分類した.次に調査区画を各環境区分からランダムに選び,巣穴の有無を調査した.結果,調査した17区画のうち,4区画で巣穴が発見できた.巣のあった区画は全て日照の遮蔽度が高かった.

初期分散距離の調査では,まず親仔同居中の巣の扉内側に標識として蛍光性粉末を塗抹しておき,仔グモ分散の約1ヶ月後である5月中旬に,親巣周辺の1m×1.5mとそれに連続した0.5m×10mの範囲において巣を探した.発見された仔グモの巣は扉を開け,ブラックライトを照射することで標識の有無を検出した.結果,標識の付着した巣は23個見つかり,親巣からの直線距離は32.3±7.8cm(平均±標準偏差)であった.

以上から,本種の分布には日照が影響し,初期分散距離は分布に対して短いことが示唆された.しかし分布調査においても初期分散距離の調査においても例数が不十分であり,今後より詳細な調査が必要である.


日本生態学会