| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
シンポジウム S03-5
山梨県側から富士山五合目に登るスバルライン沿って、標高約850 m 〜 1200 mの範囲には、約5kmにわたって風光明媚なアカマツ林が存在する。この森林は、富士山の噴火により噴出した剣丸尾溶岩流上に成立しており、剣丸尾アカマツ林として有名である。一次遷移の先駆群落とみなされる場合もあるが、剣丸尾溶岩の噴出からすでに1,000年以上経っているにもかかわらず、アカマツの樹齢は100年程度しかない。富士北麓地域は、土地が痩せている上に標高が高いことから農耕適地が少なく、人々の生活はかなりの部分を林野産物に依存していた。従って、剣丸尾アカマツ林の起源には人間の森林利用の歴史が深くかかわっている (大塚ら, 2003)。
また剣丸尾アカマツ林では、渦相関法による森林のタワーフラックス観測が2000年から継続されており (Ohtani et al., 2005)、日本を代表するフラックス観測サイトの一つでもある。我々は、1999年に剣丸尾アカマツ林内に永久方形区(80 m×80 m)を設置して、森林の群落動態と、生態学的な手法に基づく炭素循環研究を、微気象学的な観測と連携して継続している。この森林生態系は、鉱質土壌層がほとんどない貧栄養な土壌に成立していること、アカマツ林としては標高の高い場所に成立していることなどの特徴を持っている。しかし、物質生産を見ると、現在でもアカマツの成長は良く、純一次生産量も比較的大きかった。一方で、土壌圏有機物 (SOM) が少ないためか、土壌呼吸量は一般的な冷温帯の森林に比べて小さかった。炭素循環としては、樹木バイオマスプールだけでなく、SOMプールにも多くの炭素を蓄える生態系純生産量 (NEP) の大きな生態系であることが分かってきた。このアカマツ林は二次林ではあるが、一次遷移に伴う土壌の発達と炭素循環プロセスの変化を調べるために最適なサイトであると考えられる。