| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
シンポジウム S03-6
徳地直子(京都大・農), 大手信人(東京大・農)
滋賀県南部の桐生水文試験地マツ沢流域では、1990年前後のマツ枯れで集水域面積の約25%に相当するマツを主体とした斜面上部でほとんどのマツが枯死した。マツ枯れによる撹乱が物質循環に与える影響を評価するため、土壌の窒素動態と水文過程に注目して、土壌の養分動態や渓流水の化学性を調査した。集水域内のマツの胸高断面積は、マツ枯れ前後で18.6m2ha-1(1989年)から1.9 m2ha-1(1998年)まで減少した。1992年から1994年にかけて、立ち枯れたほとんどのマツが風倒した。落葉落枝の供給とマツ枯れに伴う窒素吸収の減少などにより、土壌の窒素動態は大きく変化した。マツ枯れ前の1989年には、マツ枯れが顕著であった斜面上部とマツの分布が少なかった斜面下部のプロットの間で大きな違いがみられなかった土壌の窒素無機化速度が、マツ枯れ後の1991年には両地点ともに大きく上昇し、さらにマツ枯れから数年後の1997年にはマツ枯れの顕著であった斜面上部のみで高く維持されていた。渓流水、地下水中のNO3-濃度、Ca2+、Mg2+濃度はマツ枯れ後に3倍程度上昇した。渓流水中のNO3-濃度は1992年から1996年には夏の降雨期にピークをもつ季節変動を示した。渓流水中のNO3-濃度の季節変動の原因としては、土壌中の窒素ダイナミクスの季節変動よりも、夏季に降水が多いために、地下水位が上昇して表層近くの土層からのNO3-流出が促進されることが重要であることが示された。しかし、その一方で、調査期間の渓流からの窒素の流出量は、マツ枯れによるリター供給量と比べて小さかった。両者の量的な不一致から、土壌中で微生物による無機態窒素の不動化が生じていること、これによって土壌が窒素流出のバッファーとなっていることが示された。