| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


シンポジウム S03-7

宿痾マツ材線虫病をかかえた日本のアカマツ林の行方

中村克典(森林総研)

マツ材線虫病(いわゆる,松くい虫被害)は約100年前に日本に侵入し,すでにほぼ全国に蔓延するに至っている。この病気の強い病原力と感染力,マツ林の分布状態,そして防除に振り向けることのできる資源(予算,山林労働力)を考えると,材線虫病を国内から根絶することはもはや不可能と言ってよい。日本のアカマツ林の今後を考えるにあたっては、材線虫病という「持病」の存在を避けて通ることはできない。

アカマツはクロマツに比べれば材線虫病感受性が弱く,短期間で林分が壊滅的な被害となることは少ない。しかし,樹体内に侵入した病原体マツノザイセンチュウが寄主を発症させることなく長期生存する可能性があり,その結果,被害は長期持続的なものとなりがちである。このような被害特性から考えられるアカマツ林の管理方針として,1)長期的視野に立った防除対策,2)マツ(林)の健全化による発病抑制,3)抵抗性誘導を考慮した被害管理,を提案したい。

日本におけるアカマツ林の広汎な分布は強い人為の影響下で発達,維持されてきたものであり,燃料革命以降のマツ林の管理放棄は国内における材線虫病流行の大きな要因であったと考えられている。材線虫病の流行は生物的侵入によって生じた特殊な事態であるが,人為に深く依存したアカマツ林本来のあり方をより一層強調して我々に突きつけるものともなっている。


日本生態学会