| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
シンポジウム S06-2
研究の背景:近年、ヒトや家畜から野生生物に至るまで、感染症が発生している。このような感染症の拡大は、人間を直接死に至らしめるだけでなく、経済的損失や生態系の崩壊を引き起こす可能性があり、人類が直面するきわめて深刻な地球環境問題である。世界の感染症対策は、感染症の診断法や感染症が起きた後の拡大の防止法の研究に力が注がれている。感染症発症の病理メカニズムの解明は進展しているが、自然環境中における病原生物の動態と病原生物を生み出す背景と考えられる人間・環境相互作用環の理解が著しく遅れている。その理由は、(1)既存学問分野において、このような研究課題が緊急かつ重要な研究課題であるとは考えられなかったこと、(2) 研究を進める方法論の開発が遅れていること、(3)実証研究が困難であること、(3) 分子生物学から、環境学、人間社会までレベルの異なるシステムの繋がりに注目し、総合研究を進めようとする研究者や研究チームが少なかったことが挙げられる。
研究目的:コイヘルペスウイルス(KHV)感染症をモデルとして、(1)人間による環境改変、(2)感染症の発生・拡大、(3)人間生活の変化、という3者間の相互作用環を実証的に明らかにして、感染症の発生・拡大を未然に防ぐ予防医学をめざした環境と、人間と病原生物の共存のあり方を提案することを目的とする。
発表内容:総合地球環境学研究所プロジェクト「病原生物と人間の相互作用環」で得られた結果の一部をまとめて紹介する。具体的には、想定している相互作用環の構造、相互作用環の解明に必要とされる生態学的研究、自然環境水中のKHVの検出法、いくつかの実証研究から見えてくる相互作用環の実態について述べる。