| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
シンポジウム S06-3
生態系を順応的に管理する上では、人間活動と生態系の関係を生態学などの科学的手法でモニタリングすることが不可欠となる。しかし、それだけで十分であろうか?生態系の管理には、流域という空間スケールでおこなう流域管理が有効とされるが、多様な問題意識を持った利害関係者によるガバナンスをめざす場合、トップダウン的な目標設定と法律制定などのハード面の整備だけでは、効果的な生態系管理は期待できない。まず、地域の利害関係者が、地域生態系の長期的な将来像を議論する場に参加し、コミュニケーションを通じてお互いを理解することが必要となる。これまで、コミュニケーションを促進する手法として、対話を重視したワークショップから、GISの利用に至るまで幅広い手法が開発されているが、これらの手法を使えば、ただちにコミュニケーションが促進されるわけではない。
本発表では、地球研の流域ガバナンスプロジェクト「琵琶湖−淀川水系における流域管理モデルの構築」(2002年−2006年)の社会科学研究者チームの研究成果から、コミュニケーション手法が効果的であるための、1)地域の社会的条件、2)伝達内容に関する社会心理学的条件について、そのエッセンスを紹介する。主に琵琶湖流域の農業濁水問題を事例としたワークショップとアンケート調査の検討によって、1)対象となる地域社会に、住民が参加できる多様な団体・組織のネットワークと信頼感(社会関係資本)が形成されていること、2)伝達内容に、当該生態系への影響に関する科学的な情報だけでなく、地域が関心を寄せる問題と接点を持つ地域固有の情報(情動的要因)が含まれることが、それぞれ、利害関係者間のコミュニケーションを促進し、地域住民の環境配慮行動を促す上で、大切であることが示唆された。