| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


シンポジウム S09-1

ユビキタスジェノタイピング:遺伝解析におけるチープ革命を生物保全にどう取り入れるか

井鷺裕司(京大・院・農)

日本列島には変種や亜種も含めると約7,000種の維管束植物が分布しており、そのうちの約4割が固有種である。この様に高い生物多様性が認められることから、日本列島は、世界の生物多様性ホットスポット34ヶ所の一つとされているが、日本列島に生育する維管束植物のうち2割を超える種が、何らかの形で絶滅の危機にさらされている。

生物個体群の遺伝的特徴は、特に絶滅に瀕した個体群の動態に対して大きな影響力を持つ。そのため、集団の遺伝的多様性、遺伝構造、遺伝的分化、交配様式などを知ることは、絶滅危惧種の保全のために必要不可欠である。適切な保全方法を確立し、生物多様性の減少を食い止めるためには、個体レベルの詳細な遺伝情報が有効に活用できるが、多くの絶滅危惧種においては、いまだにその様な情報を利用できる状態には至っていない。

多様な生物を対象とした全ゲノム情報解読計画や、新たな測定原理に基づく次世代シーケンサーの開発に代表されるように、遺伝子科学の発展は著しく、以前には考えられなかったほど、容易、低コスト、正確に、大量の遺伝解析が可能になりつつある。

本講演では、近年著しく発展し、まさにチープ革命ともいうべき変化をもたらした、遺伝子解析技術を活用することで、絶滅危惧植物を対象に、現存するすべての個体を対象にジェノタイピングし、遺伝子型を包括的にモニタリングすること(本シンポジウムではユビキタスジェノタイピングと呼ぶ)で、どの様な保全策が構築できるかを、小笠原諸島と阿蘇山系という二つの生物多様性ホットスポットにおける解析事例も交えながら考察する。


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