| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
シンポジウム S09-2
九州中央部に位置する阿蘇山系には日本有数の草原環境が維持されている。そこにはキスミレやヒゴタイなどを代表とする大陸系遺存種が数多く分布し、ハナシノブなどの阿蘇周辺にのみ分布が限られる固有種も存在する。こうしたことから、阿蘇山系の草原フロラは植物地理学的に興味深い場所といえる。一方、これらの植物の多くが現在急速に個体数を減少させており、環境省および県のレッドデータブックにリストされる絶滅危惧植物となっている。阿蘇の草原環境は、農耕牛を育てるための採草や放牧、野焼きといった人間活動の結果維持されてきたものである。近年、農業の近代化による機械化や化学肥料の利用、畜産業の低迷などによってその存在価値が減少し、阿蘇の草原植物は生きるための場所を失い絶滅の危機に追い込まれている。
そこで本発表では、阿蘇における絶滅危惧植物をご紹介するとともに、草原環境がどの程度減少しているのか、またその要因はどこにあるのかについて触れる。またそういった状況の中で、消えゆく阿蘇の草原植物を将来に引き継ぐため、様々な団体が保全活動を行っている。ここではその中の一つであるNPO法人「阿蘇花野協会」における草原再生活動についてご紹介する。当団体では野焼きや草刈り等を、ボランティアの力を借りて昔ながらの維持管理方法によって草原を再生・保全することを進めている。現在、活動を始めて間もないが、藪で覆われていた場所に数多くの草原生の希少植物が再生しつつある。
こうした再生活動とともに重要なのが、絶滅危惧植物の遺伝的な実体を知ることである。ユビキタスジェノタイピング解析を通して、小さくなった集団にどれくらいの遺伝的な多様性が残っているのか、離れた集団間にはジーンフローはどれくらいあるのか、集団間に遺伝的な構造が存在するのかどうかなどを知ることは再生・保全活動を進めるうえで重要な情報になると考えられる。