| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
シンポジウム S16-1
後期更新世から完新世への移行は最終氷期から後氷期への移行に対応し、酸素同位体編年のステージ2からステージ1への移行にあたる。これに対して後期旧石器時代から縄文時代への移行はこれに対応せず、縄文草創期から早期への移行がおおむね対応する。すなわち縄文時代は後期更新世末期に始まる。後期更新世末期は地球規模で気候が急激に温暖化を遂げたが、約12000〜11000年前の短期間の急激な寒冷化があった。完新世はこの後の急激な温暖化によって始まる。日本列島の植生はこのような急激な環境変動によって大きく変化した。東北地方では温帯針広混交林や寒温帯針葉樹林から、場所によってはダケカンバ林を経て温帯落葉広葉樹林へと変遷した。温帯落葉広葉樹林は最初コナラ属を主体にしたが、約8000年前からブナが優占するようになった。ブナは降水量の増加すなわち東北地方では積雪量の増加によって、奥羽山脈から西側の日本海側を中心に拡大したが、降水量が乏しい太平洋側ではコナラ属、シデ属、クリなどで占められた。約4500〜3700年前、平野から山地にかけての谷筋に沿ってトチノキを代表とする落葉広葉樹や針葉樹のスギが急増を開始した。とくにスギは日本海側の平野から山地にかけて急速に拡大し、広大なスギ林を形成した。また、現在のいわゆる亜高山帯では、アオモリトドマツとダケカンバを主体とする針葉樹林あるいは針広混交林が拡大した。これは新氷期と呼ばれる完新世後半の気候の寒冷化による変化である。一方、縄文時代を通して人間の活動は活発となり、約6000年前の前期には平野から山地にかけて人為的にクリ林を作るなど生態系の大きな改変が行なわれた。また、森林から草原への変化も平野を中心に広域に及ぶようになった。これらは人間による恒常的な維持管理によって存続したが、弥生時代以降では大きく改変されていった。