| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
シンポジウム S17-3
全国各地でニホンジカ(Cervus nippon)の分布が拡大し、農林業被害などヒトとの軋轢が増加している。自然公園や高山地域では生態系保全のためのニホンジカ管理が緊急課題となっている。北海道は、1998年に被害軽減や絶滅回避を目的とした「道東地域エゾシカ保護管理計画」を策定し、科学的なモニタリングに基づく個体数管理を開始した。個体数の動向を把握する指数として、ライトセンサス、航空機調査から得られた相対密度指標、努力量当りの捕獲数と目撃数、農林業被害額等を用いている(梶ほか1998)。Uno et al.(2006)は、人為的な偏りが小さく一貫性が高いことからライトセンサス指数の信頼性が高いことを明らかにした。Matsuda et al.(2002)は生育段階構造モデルを考え、人為的に除去した捕獲数に対する指数の反応を調べることによって個体数を推定する手法を提案した。さらに、Yamamura et al.(2007)は、空間的・時間的異質性を考慮した指数の推定及びベイズ法を用いた個体数推定の手法を開発した。
本報告では、1990年から15年間行ってきたモニタリング結果を紹介し、情報の蓄積により不確実性を減らすことの重要性【モニタリングの頑健性】について議論する。また、一貫した保護管理を推進するため、得られた成果を施策に反映させる合意形成と意志決定の過程について紹介する【保護管理の頑健性】。残念ながら、計画達成のために必要とされる目標捕獲数と実際の捕獲数との間には大きな乖離がみられ、現行の法律に基づく狩猟管理と個体数調整捕獲では管理は限界に来ていると考えられる。エゾシカの個体数管理が直面している課題を抽出し、今後の方策について議論したい。