| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
シンポジウム S19-5
近年の温暖化の影響に伴う気候変化は、様々な地域生態系の生活環境に影響を及ぼしつつある。温暖化はいまや大きな関心事の一つとして社会全般に浸透する中、将来的に危惧される急激な気候変化を緩和させ、生物環境にとっての安定な気候システム維持に貢献する可能性の高い陸域生態系の機能サービスに大きな関心が注がれている。地表近傍における気候環境は大気と陸域生態系とのエネルギー・物質交換の影響を大きく受けて形成され、また多様な陸域生態系と大気間におけるこれらの交換過程の複合によって広域スケールの気候環境が制御されている。そこで、「今後、陸域生態系は炭素吸収源としてどの程度機能するのか」、「気候変化に伴い、大気と陸域生態系との熱・水交換は気候システムへどのような影響を及ぼすのか」、これらの課題の解明に向けて、世界の研究機関は自然科学的手法に基づく野外観測や大気―植生動態モデル研究に取り組んでいる。複数の代表的な植生動態モデルと気候変化シナリオを用いて全球スケールにおける将来の正味生態系生産量(NEP)の算出を行った過去の研究によれば、使用される植生動態モデルの違いがNEPの結果に大きな違いを生み出す要因であることが報告されている。このことは様々な枠組みで構築・使用される植生動態モデルによる林分スケールでの検証の吟味や生態学的解析は未だ不十分であり、植生動態モデルに含まれる各種スキームの違いに伴う予測の不確実性を明確にする必要性を示唆している。さらに、温暖化の影響は気候帯や植生によって異なることが予想されるため、気候変化に対する陸域生態系応答評価の統合研究の前進は多様な地域で実施された研究成果の集約により可能となる。今回の研究会で、筆者らは森林を対象として、林分スケールの大気―陸域生態系間の植生動態・エネルギー・物質交換過程に着目した大気―植生動態モデル研究結果を報告する。