| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
シンポジウム S20-5
森林の種多様性維持機構の1つに成長と生存のトレードオフモデルがある。これはギャップなどが形成され光環境が不均一な森林では、構成種間でギャップでの成長率と林内での生存率に負の相関関係があれば、それらの種が共存できるというモデルである。
実生段階の成長と生存のトレードオフには物質分配が関与すると考えられる。林内での実生の死亡は主に植食者や病原菌による加害によって起きるため、耐陰性の高い種はそれらを回避する防御物質や、ダメージ後の回復に用いられる貯蔵物質に多くの資源を分配することが重要である。しかし、それらの物質を多く生産すると成長を犠牲にすることになり、結果的に成長と生存にトレードオフが生じるといわれている。
近年の研究では耐陰性の高い種ほどより防御・貯蔵物質を多く生産し、逆に成長率は低くなることが報告されている。しかし、成長と防御、および貯蔵の3者を含めて物質分配についに明らかにした研究はない。防御は植食者や病原菌によるダメージの回避、貯蔵はそれらのダメージを受けたときの回復と異なった生存戦略を意味し、どちらへの投資もコストがかかるため、種間で防御と貯蔵の二者択一的な物質分配が存在すると考えられる。
本研究では温帯域の森林の主要構成種11樹種を対象に、異なる光環境下で育てた実生の成長率、防御物質および貯蔵物質量を調べた。そして耐陰性の高い種群において防御投資型と貯蔵投資型の2つの異なる物質分配が存在するのかを明らかにし、もし存在するならばそれはどのような種特性に特徴づけられるのかを検討した結果について報告する。