| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
シンポジウム S23-5
平成19年までの佐渡市の農業にとって、トキの放鳥は決して大歓迎ということではありませんでした。もちろん一部ではトキを育む取り組みとして水田を利用した餌場作りが行われていましたが、島内の一部の人で行われており、全体的には無関心の農家が多かったように思われます。また農業自体においても米価の下落、生産調整の強化などにより農家の疲弊が目立ってきたことなどが佐渡農業の状況でした。
そのような状況の中、トキの試験放鳥が近づき、餌場としての水田の重要性が大きくクローズアップされてきたなかで、トキの野生復帰への支援と農業の活性化を図る対策として朱鷺と暮らす郷づくり認証制度の基本案の検討が佐渡市及び新潟県・JA等農業関係機関で始まりました。コンセプトは「環境再生から農業の活性化」であり、多くの農家が少ない負担でトキの餌場づくりが可能なこと、かつ、トキの餌場づくりが農業経済に寄与することで制度設計を図りました。
平成19年12月「朱鷺と暮らす郷づくり認証制度」がスタートし、エコファーマー、5割以上の化学合成肥料、化学農薬の削減、生きものを育む農法の実施を要件として、農家説明を行ったところ450haを超える冬期湛水、江(水田の深み)の設置などの申請があり、想像を超える反応の高さとなりました。そのポイントとして、島内全体での生物多様性農業への転換、環境ブランド米としての方向性などに農家の理解が得られたのではないかと考えています。たくさんの課題はありますが、21年は冬期湛水の申請は800haとなるなど、トキの放鳥を契機に生きものに優しく、環境を守る農業へシフトが進んでいます。