| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) E2-01
生物多様性の状態を指標化し、監視していくことの必要性が近年高まっている。一方で、気候変動は着実に生物多様性に対する重大な脅威の一つとなりつつある。特に、気候変動に応じた生物学的現象の時間変化(フェノロジー変化)は多くの研究によって報告されてきたが、長期にわたるフェノロジー変化を群集レベルで指標化し、気候変動の影響を定量化しようという試みはまだない。
本研究では気候変動が植物群集に与える影響を定量化するため、イギリスの植物408種を対象として250年間にわたる開花時期変化を表わす指数を開発した。用いたデータは、イギリス全土で断片的に集められた395,564件に及ぶ開花日の記録である。階層ベイズモデルによって推定された1753-2009年の開花時期指数によって、イギリスの植物群集は直近の25年間に最も早い開花時期を示していることが明らかになった。指数は2-4月のCentral England Temperature平均と負の相関関係にあり、気温が1℃上昇する毎に指数は5.0日早い開花時期を示していた。モデルによって種ごとの開花時期指数も同時に推定され、今後より詳細な種レベルでの解析へ発展が望まれる。
本研究により、多くの調査地で断片的に得られた多種データから、群集及び種レベルのフェノロジー変化を示す指数を推定する手法が確立された。推定された開花時期指数は、今後気候変動が生物多様性に与える影響を監視するために重要な役割を果たすだろう。また本研究の手法を応用することで、他の分類群や地域のデータも取り込んだ統合フェノロジー指数の開発も可能になると考えられる。